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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)2575号 判決 1988年7月20日

第一審原告(昭和六二年(ネ)第二五一一号事件控訴人・同第二五七五号事件被控訴人)

甲沢順子こと

甲順子

右訴訟代理人弁護士

木村一郎

須藤建夫

第一審被告(昭和六二年(ネ)第二五一一号事件被控訴人・同第二五七五号事件控訴人)

乙城伸好こと

乙光哲

右訴訟代理人弁護士

金敬得

主文

一  原判決中第一審原告が原判決添付別紙物件目録記載の建物につき持分一三分の一を超えて共有持分権を有することを確認した部分を取り消し、右取消しにかかる第一審原告の請求を棄却する。

二  第一審原告の控訴及び第一審被告のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を第一審被告、その余を第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告は、「原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。第一審原告が原判決添付別紙物件目録記載の建物(本件建物)の所有権を有することを確認する。第一審被告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求め、第一審被告は、「原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。第一審原告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書二枚目裏二行目中「A成宝」を「a成寶」に改める。)及び記録中の当審における証拠目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  第一審被告

第一審原告は昭和三六年一二月二六日在日韓国人Bと日本の方式により婚姻をなし、C死亡時には同人とは同一家籍内になかったから、第一審原告の相続分は第一審被告の相続分の四分の一である。

二  第一審原告

第一審被告の右主張は争う。

理由

一当裁判所は、第一審原告の本訴請求は主文第一項記載の持分の限度で理由があるが、この限度を超える部分は理由がないものと判断するものであり、その理由は、次につけ加えるほか、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決書三枚目表一〇行目中「甲第八」を「第六ないし第八」に改め、同裏二行目中「四、」の下に「原審における第一審被告本人尋問の結果により成立を認める乙第五号証」を加え、同行中「証人Dの証言」を「原審証人D、当審証人Eの各証言」に、同行中「原被告」を「原審並びに当審における第一審原・被告」に改める。

2  同三行目中「よれば、」の下に「本件建物の建築に先立ち昭和四四年から昭和四七年にかけて荒川信用金庫町屋支店にC名義で積立預金がなされ、積立額は三年間で約二〇〇万円になったこと、右積立預金の解約金は後記貸付金の担保として提供されたか又は本件建物の請負代金の一部の支払いに充てられたこと」を加える。

3  同末行中「あったこと、」の下に「本件建物の敷地はC名義の借地であって同地上にあった旧建物の所有者もCであったこと、Cは本件建物建築後その一階部分に居住し、二階部分と隣接の旧工場(未登記)を他に賃貸してその賃料収入で固定資産税や前記借受金の支払いをしていたこと、同人は昭和五一年八月二四日に金一七五万円、同月三一日に金二〇〇万円を中ノ郷信用組合に支払って右借受金を完済したが、本件建物及び旧工場の賃料収入(当時一か月拾数万円)を蓄えておけば右の支払いは可能であったこと、第一審原告は本件建物に居住したことがないこと、第一審被告は昭和四八年七月本件建物に入居したが、その際本件建物の所有者が誰であるかということは話題にならなかったこと、昭和五四年本件建物の敷地の借地契約を更新するにあたり借地の名義人を第一審原・被告両名に書き換えたが、第一審原告はCの生存中、本件建物の所有権が第一審原告にあることを主張した形跡がないこと」を、同四枚目表三行目中「借受けて」の下に「本件建物の賃料収入でこれを」を加える。

4  同八行目中「本件相続」から同裏四行目中「なる。」までを「そこで、Cの死亡による相続について検討するに、法例二五条によれば、相続の準拠法は被相続人の本国法によるべきものとされ、被相続人Cの本国法である大韓民国(以下「韓国」という。)民法一〇〇〇条、一〇〇六条、一〇〇九条によると、被相続人の直系卑属が第一順位で相続人となり、財産相続人が数人あるときは、相続財産はその共有とし、同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は原則として均分であるが、同一家籍内にない女子の相続分は男子の相続分の四分の一とするものとされている。また、同民法七八九条、八一二条、八二六条によれば、婚姻は戸籍法に定めるところによって届出することによって、その効力を生じ、家族は婚姻すれば当然に分家し、妻は夫の家に入籍するものとされている。

これを本件についてみると、第一審原・被告、F、GがCの子であることは、当事者間に争いがないから、右四名は同人の直系卑属として同順位で共同相続人となり(なお、Cの夫a成寶がCの相続開始前に死亡していることは、当事者間に争いがない。)、本件建物は右四名の共有となったところ、成立に争いのない乙第六号証の一ないし五によれば、第一審原告は昭和三六年一二月二六日東京都葛飾区長に対し在日韓国人Bとの婚姻届出をし、これが受理されたことが認められ、これによれば第一審原告とBとの婚姻は婚姻挙行地である日本の方式によって右婚姻届出をしたときに韓国法上も有効に成立したものと認めることができ(法例一三条、韓国戸籍法四〇条、韓国渉外私法一五条)、第一審原告は右婚姻によって分家して夫Bの家に入籍し、その結果Cとは同一家籍内にないことになったというべきである。

ところで、在日韓国人間の婚姻が日本の方式によってなされた場合、その婚姻届が日本の市区町村で受理されても、直ちに韓国における戸籍の整理がなされるわけではなく、そのためには韓国の戸籍機関(本人の本籍地の市・邑・面の長)に対し日本の市区町村の長が作成した婚姻届受理証明書、戸籍整理申請書等を直接持参又は郵送して提出しあるいは駐日韓国公館に対しこれらの書類を提出することが必要とされ、後者の場合、右書類は外務部長官を経由して本人の本籍地に送付されることになっている(韓国戸籍法四〇条、四一条、韓国在外国民就籍・戸籍訂正及び戸籍整理に関する臨時特例法)ところ、前掲乙第一号証及び当審における第一審原告本人尋問の結果によれば、第一審原告はBとの婚姻の成立につき前記の手続を履行せず、また韓国の戸籍機関に報告しておらず、第一審原告とBとの婚姻はいまだ韓国の戸籍上整理されずこれに記載されていないことが認められる。

しかし、さきに判示したとおり、韓国法上婚姻はその届出の受理によって有効に成立してその効力を生じ、戸籍の記載は効力要件ではなく、婚姻成立後の戸籍整理上の入籍又は除籍という手続処理の問題にすぎないから、第一審原告はその婚姻の成立と同時に当然分家し、C及びその家族と同一家籍内にないこととなったものというべきである。

次に、第一審原・被告の姉であるFについては、本件全証拠によっても同女が婚姻して他家の戸籍に入ったことを認めるに足りない。

なお、戸主相続人の財産相続における相続分の五割加給の規定(韓国民法一〇〇九条一項但書)は、戸主相続が財産相続と同時に開始される場合に限って適用されるところ、前掲乙第一号証によれば、第一審原告の弟で第一審被告の兄Gは父a成寶が昭和四一年六月一六日死亡したことにより韓国民法上戸主相続をしたことが認められるが、本件においてはCの財産相続のみが開始したものであり、同時に戸主相続が開始した場合ではないから、Gの相続分を五割加給する旨の前記規定が適用される余地はない。したがって、Gの相続分は第一審被告及びFと同一である。

そうすると、第一審原・被告、F、Gの各相続分は、同一家籍内にない女子である第一審原告が一三分の一、その余の三名がそれぞれ一三分の四となり、第一審原告は本件建物について一三分の一の共有持分権を有することになる。」に改める。

二したがって、原判決中第一審原告の本訴請求を右の限度で認容した部分は相当であってこれが取消しを求める部分の第一審被告の控訴は理由がないけれども、右の限度を超えて第一審原告の共有持分権を確認した部分は不当として取消しを免れず、これが取消しを求める部分の第一審被告の控訴は理由があり、右の限度を超えて所有権の確認を求める第一審原告の控訴は理由がない。

よって、原判決中右の限度を超えて第一審原告の共有持分権を確認した部分を取り消し、右取消しにかかる第一審原告の請求及びその控訴並びに第一審被告のその余の控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舘忠彦 裁判官牧山市治 裁判官小野剛)

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